――’99年にデビューして今年で12年経ちますが、同時期にデビューしたバンドは解散だったり活動休止する中で、DIR EN GREYがこうやって年月を重ねてこられた要因は何でしょう?
「なんですかね…やろうと思って長く出来るものでもないので。その時、その時をしっかり自分たちの判断で責任を持ってやってきたというか。自分たちの道を、自分たちでちゃんと探しつつ、確認しつつやってきたので、変にブレたりしなかった分、やってこられたんじゃないかと思います」
――そのブレなかった部分とは?
「例えば売れるために曲を作ろうとか、いろんなジャンルに手を出してしまうとか、そういうことはあまりなかったので。デビュー当初は外部からいろんな声が入ってくることが多かったんですけど、途中から自分たちのやりたいことを自分たちだけで決めてやっていくスタンスに変えてからは、自分たちの音楽に対する反応が分かりやすくなった分、迷わなくなりました」
――やりたいことをやっているというのは、PVや楽曲からも伺うことが出来ますね。ちょっとグロテスクだったり、人の抱える様々な痛みだったりを敢えて表現することには、どういう想いが隠されているでしょう?
「グロテスクだったり、気持ち悪いものだったり、暗いものの中にこそ、何か美しいものが、光輝くものが存在するんじゃないのかなって。そういう光を探して、何かを提示出来たらなと思っているので」
――それはまさしく今作にも通じますよね。タイトルの『DUM SPIRO SPERO』には、“人は生きている限り希望を持ち続けることができる”という意味があるようですが、収録曲のタイトルは悪魔を意味するものが多いですし。
「(アルバムのタイトルと収録曲が)全然違う感じですよね。でも、闇がないと光もないので、その中から何かを見出してもらえたら。臭いものには蓋をするのではなく、もっともっとそういうところを見つめて、その上で未来に歩いて行こうというか。やっぱり自分の嫌なところって隠すじゃないですか? でも、そういう嫌な面って自分自身がすごく良くわかる一面でもある。そういう、人それぞれの個を大事にして生きて欲しいなと。そういうところも含めて、その人の人間性なわけですから」
――自分の嫌な一面からは目を背けがちになりますもんね。でも、そうやって自分と向き合って楽曲を作るのは、かなりしんどいんじゃないですか?
「しんどいですね。でも、そうしないと曲も作れないので…それが当たり前みたいな感じになっていますね。例えばフッと曲が出来たとしても、やっぱり違うんじゃないかって考え直すので、曲を作るのに時間がかかるんですよ。もっともっと自分の中を通して、本当に自分の思っていることを楽曲に反映させられているかを何回も考えて、作っていく感じですね。だから、簡単に出来た曲は信用出来ないんですよね、自分自身に対して(笑)」
――そうなんですね。そうやって突き詰めた結果、前作から今作までの間が約2年9ヵ月空いたわけですか?
「去年の1月から作り始めたんですけど、今回はリリース日を決めずに制作に入ったんですね。いつもはリリース日がだいたい決まっている中でレコーディングを始めるんですけど、締め切りというものに追われずに作りたいなと」
――リリース日を決めずに入ったのは、“最強にして最狂の1枚”と称された前作『UROBOROS』(‘08)以上のものを作ろうという気持ちもあったのでしょうか?
「それはあまり考えなかったですね。もっともっと自分らしく追求すれば、また違った形にはなるだろうと思っていたので。逆に超えようと考えると、考え過ぎて悩んでしまうような気がして。今作を作り始めたときにはいろんなことを試していたんですけど、やっている内にそういうことじゃなくて、もっと単純に自分がしたいことを突き詰めるというか。あと、単純にアコースティックのバラードがあるとか、そういうことでアルバムのバリエーションを付けたくなかったんですよ。結局それだとモノに頼っているというか、エレキがアコギに変わったことで世界観が変わっているだけじゃないですか。そうじゃなくて、もっと同じ音色、同じ歪んでいるギターでもどれだけ違う世界を見せられるのか。“これだけ”と決めた中でどう聴かせていくかを考えた方が、自分らしさが濃く入るやろうなと思って」
――そうやって作られた今作『DUM SPIRO SPERO』は、割と聴き易かった印象のある前作と比べて、また閉じたイメージを受けました。
「そうですね。また入口は狭くなりましたね(笑)」
――なぜそうなったのでしょう?
「今回のテーマではないんですけど、曲を綺麗に“まとめない”っていうのが自分の中にあって。8枚もアルバムを作ってきたんで、どうしてもバランスを取ろうとしてしまうというか、アルバムを作ってきたクセがあるんですよね。こうすれば俺らっぽいとかそういう感覚って、今までいろんな曲を聴いてきて、プレイしてきてっていうところのクセだと思うんですよ。そこを1回無くした方が、自分たちも他の人たちも聴いたことのない作品が生まれるんじゃないかなって。ある程度まとめずに、なんかよく分からんけど、でも、カッコイイならそれでよし、くらいで止めておくのは狙ってやりました」
――その“クセ”を1回無くしてしまおうと思ったきっかけはあるんですか?
「なんか…数を作っていくと、サラっと作れてしまうような、どんどん棘がなくなっていくような感覚がある気がして。そうなると聴き易くはなると思うんですよ。でも、そうではなくて、もっと尖っているものを作りたかった。このバンドを14年やってきて、8枚のアルバムを作って、今のところは全然大丈夫なんですけど、いつかやることがなくなってしまったり、全然曲が生まれてこなくなる感覚が訪れるかもしれない危機感はあるんですよね。もしかしたらこのアルバムで終わりかもしれないし、バンドが脂に乗っている状態はいつまで続くかわからない。なら、本当に自分たちのエゴがいっぱい入った作品を、どれだけ残せているのかって。100人中1人でも良いと言ってくれる人がいるなら、自分たちはやりたいことをやれてきたんやなって思えるやろうし、聴いてもらうために曲をどうこうするっていうのはちょっと排除して、本当に自分たちのために作りましたね」
――そういう心境に至ったのには、震災の影響が多少なりともありました?
「そうですね。まだ実際に録っている途中で佳境に入る手前だったんですけど、みんなで曲をアレンジしているときに震災があって。レコーディングに入る予定だったんですけど、一旦中断して。これからどうしていこうかというときに…自分たちはまずこのアルバムを完成させようと。その気持ちの中で制作したものが、どういう風にみんなに響くのか…今だからこそ、気持ちを音に閉じ込めた方がいいんじゃないかって。この先、日本がどうなるか分からないじゃないですか? アルバムを出してツアーしての単純な繰り返しなんですけど、それをこれからも本当にやっていけるのか? 極端な言い方ですけど、そういう状況に日本は置かれている。だから、1つ、1つ、今あることを大事に、自分らがやれることは精いっぱいやろうって改めて思ってますね」
――ということは今作はもちろん、今後生まれてくるであろう曲に込められる想いも、これまでとは少し違うものになりそうですか?
「バンドに対すること、音に対すること、ファンに対すること、日本に対すること、もういろんな意味が入ってきちゃっているので。だから…簡単に曲を聴いてくださいって言いたいけど、それだけじゃない部分は出てきますね」
――より深く、聴いて、曲や歌詞の裏に込められた何かを掴んで欲しいですよね。
「そうですね。京(vo)が書く詞は裏から見ても表から見てもどうなってるのか分からないところも結構ありますけど、すごく考えさせられたりするんで」
――薫さんでも京さんの書く詞は難しいと思うんですか?
「やっぱり…全部が全部は分からないですね(苦笑)。でも単語のちょっとしたところで、こうなのかなって感じたり。でも、京自身もこういうことですって言いたくはないみたいで、人それぞれ好きなように感じてくれっていうタイプなんで。でも、今回は自分の嫌なところを全部歌詞にしたって言ってました。以前は締め切りがあったのでもっと追われて書いてるというか。急かされて悩んで悩んで書いてる部分が多かったみたいですけど、最近、歌詞が上がってくるのが早いので、より自由に書いてる感じはありますね」
――今作はジャケットのアートワークも今までとは少し違いますよね?
「今までちょっと黒いジャケットが多かったのでね。黒一色とか。だから、ちょっと黒から離れようと(笑)。ただ、絵とかCGにするのは嫌だったんですよ。リアルなものをジャケットにしたかった。なので、ジャケ写に写っているオブジェを実際に作って、いろんなところで撮って。その結果、一番グッときたのがこれですね」
――と言うことは…この大きなオブジェを竹林に持って行って撮ったんですか?
「はい(笑)」
――むちゃくちゃ手が込んでますね(笑)。薄暗い竹林に浮かび上がるオブジェが映ったジャケットからも、タイトル同様に希望があることを伝えたかったと?
「そうですね」
――ちなみに、バンドにとっての希望ってなんでしょう?
「難しいですね…あるんだとは思うんですけど、言葉にしにくい…言ってしまうとそれまでな気もするし、曖昧なままでもいいような気もするし…。でも、全てですかね。自分たちに関わるもの…もちろん関わらないものからも影響を受けていますし、生きていく上での全て。自分はバンドのために毎日を送っているんで、全てがバンドに反映されると思ってるので。だから、本当に日常のいろんなことがバンドの未来に繋がってくれればと思ってます」
――バンドのために毎日を送っているとのことですが、薫さんにとってDIR EN GREYはどういう存在ですか?
「自分を生かしてもらっている場所ですね。なくなることは考えられないので。自分が自分らしくっていうのとは違うと思うんですけど…やっぱりバンドっていうものが自分自身が初めてやりがいを感じてやれているものなので。やっぱりそこだけは裏切れないというか。そういう思いもあります」
――だから、よりストイックにDIR EN GREYの音楽に向き合うことが出来るのでしょうね。さて、今作は日本を含む世界21ヵ国で同時期にリリースされるということで。前作の17ヵ国より4ヵ国増えましたが、世界で受け入れられている手応えは感じていますか?
「手応えは…正直、あまり感じていないですね(笑)。周りはすごいなと言ってくれるんですけど、自分たちはそんなにすごいこととは…日本では現時点でそういう例がないのでそう思うのかなって思うんですけど、向こうに行ったら普通のバンドの活動と一緒なので。もちろん、アルバムを作ってリリースできるだけで凄いんですけど、普通のことをしてる感じなんですけどね」
――そうなんですね。海外ではどういうバンドに見られているんでしょうね?
「なんか日本の変なバンドがおるな~って感じなんじゃないですかね(笑)」
――(笑)。向こうの人も例えば良いものはいい、悪いものは受け付けないという風にジャッジをすると思うんですけど、やはり良いと思うからこそこうやって受け入れらているわけで。何が海外のオーディエンスに刺さっていると思いますか?
「やっぱり京の歌うメロディじゃないですかね。あとはステージでの存在感とか。やっぱり日本語で歌うメロディは向こうからしたら新鮮みたいで。向こうのレコード会社から英語で歌ってくれって言われたりもするんですけど、向こうと一緒になってしまうのはどうなんだ?って思うし、日本語で歌うからみんな珍しいと思っているんじゃないかなとか。最初にオレらを海外で活動させたいって言ったのは、オレらが英語で歌っていたからじゃないでしょ?って。だから、海外に行ったからといって何かを変えなくてもいいんじゃないかって思うんですよね。自分たちが若い頃、海外のアーティストの曲を聴いたりしても、言葉が分からなくてもカッコ良かったじゃないですか? 言葉が分からなくても本当に好きになっていけば、分かってくれるんじゃないかと思っているんで。歌詞の意味を自分で調べたりとか…自分はそういうことをしていた方なので。それで翻訳されたやつと見比べると全然ちゃうやん!って思ったりしてね(笑)。ライブでは向こうの人も日本語で歌ってくれたりするんで。京が英語で歌いたいと思ったなら英語で歌うと思うし。でも、何かのために作品を変えることはないです」
――それでは、最後にメッセージを頂けますか?
「曲とかPVはちょっと受け付けにくいかもしれないですけど、少しでも興味を持ってくれた人なら、アルバムを聴いてもらえば何かひっかかるところはあると思うんで。それでライブにも足を運んでもらって、そこでようやく“こういうバンドなんやな”ってすごく分かりやすく感じてもらえると思うので(笑)。ぜひライブに来て欲しいです」
――聴かず嫌いもあまりよくないですしね。
「まぁそれもいいんですけどね。自分はいろんな人に支持される音楽をやってるつもりは全然ないので。もちろん聴いてもらいたいですし、いろんな人に伝わればいいなと思いますけど、なんかひっそりでもいいなと思ってるので(笑)」
――ひっそりはもったいないですよ!
「性格だと思うんですけど、少数派の方にいきたがる(笑)。みんなが良いっていうと、多分このアルバム失敗したなって思うタイプなので(笑)。俺が間違っているのか、世の中が間違っているのか、どっちやろって思ってまうんで」
――だからバンドの規模が大きくなっていくのに、作品はどんどん鋭くなっていくっていう(笑)。
「そうですね。そういう部分もあります(笑)」
――キャリアを重ねる中で挑戦を続けていくのはすごいですし、ある種、ファンの方を信頼しているとも言えますよね。それにしても、本当にストイックな印象を受けました。
「カッコよく言うとそうですけど、ストイックというよりひねくれているだけなんですよ(笑)」
――(笑)。なんにせよ、聴いたことのない人は、1度はDIR EN GREYの音楽を聴いてみて欲しいですね。衝撃を受けると思いますので。本日はありがとうございました!
Text by 金子裕希
(11月 2日更新)
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