2010/05/21

司令塔・薫が明かす武道館2DAYSの裏側 壮絶映像が示すバンドの未来


DIR EN GREYのライブDVD「UROBOROS -with the proof in the name of living...- AT NIPPON BUDOKAN」が5月26日にリリースされる。これは2010年1月9日・10日に行われた日本武道館公演をパッケージしたもの。2008年11月にアルバム「UROBOROS」を発表したDIR EN GREYが、その後、国内外で数多くのツアーを経験し、たどり着いたのがこの武道館の2日間だ。
京(Vo)の壮絶なまでの歌とライブパフォーマンス、卓越した演奏技術に裏付けられた圧巻のバンドグルーヴ、強烈な個性を放つ楽曲の数々。武道館のステージでは、幾重にも重なる映像の魔術的な演出とともに、驚異的な世界が繰り広げられた。海外でも高い評価を得る彼らにとって確実に大きなステップとなったこの公演、そして映像作品について、リーダーの薫(G)に話を訊いた。
取材・文/岡本明


武道館は会場にいる全員の気持ちがハマった


──ライブDVDがいよいよリリースされますが、改めて映像を見直すとすごさが伝わってきますね。アルバム「UROBOROS」の流れがあそこでひとつの完成形を見たように思います。

そうなんですけど、やっている側には完結するという気持ちは特になかったんです。何をもって終わりなのかよくわからないし。でも、日本武道館という会場で2日間やれるということで、その場でしかできないものを観せられればいいなと思っていて、いろいろ考えたライブがあの2日間でした。DVDをチェックしてると、あの日の生の感覚がデカすぎて。会場の空気感が今までの中でもかなり高いところにあるのがわかりますね。自分達の気持ち、スタッフの気持ち、観に来てくれたお客さんの気持ち、全員の空気感がぴったりハマっていたというか。それがDVDの中に少しでも入ればなと思って編集しました。最初は俯瞰から撮ったカメラ1台で通してもいいかなと思ったぐらいですけど。
──アルバムは音源としてひとつの完成形ですが、ライブやツアーを経ていくことで楽曲が変化したり、新たな要素が加わったり、深まったりしてきたのでは。
具体的なところではあまり違わないんですけど、曲に対する自分達の理解度は変わってきましたね。最初の頃はもちろん曲に慣れていないので探りながらですけど、自分達の中にしっかり曲が入った状態でどう転がっていくか、というのが楽しみで。最初のうちは余白がないので、その余白の部分をメンバーなり演出なりお客さんなりで作っていく感じがあって。
──余白を作っていく?
何か決まったものをやるなら、ただ曲を聴いていればいいということになるけど、そうじゃなくて、すべてが完璧ではない、その隙間をみんなで楽しんでいくわけです。それが隙間なのか、新たな発見なのか、いろいろ言い方はありますけど。音源や過去のライブになかったものがどんどんできあがっていく、生まれていく、そういう余白です。
──普通ライブを重ねていくと演奏がまとまって、きっちりしていきますけど、そこで余白を見つけていくわけですね?
きっちりしていけばいくほど満足するかというと、そうではないんです。曲をやり始めたころに、ここまで行きたいけど現実はこのあたりまでなんだというところがあるとすると、進めていくうちに現実と理想の間隔がそのまま上がっていくんです。現実のレベルが上がると理想のレベルも上がる。上がっていきながら、そこに何か違うものを求めていこうとする。曲が自分達の中に入りきった状態だと、そういうものが見えやすくなりますね。
──その理想にかなり近づけたのが武道館ライブだったような気がします。
そうですね、気持ちの部分が一番デカいです。観に来た人が全員、来てよかったって思えるものを作りたいっていう気持ちがありました。演出があったり、前もって準備するものが多かったので、そういう気持ちが自然と沸き上がってきました。
──ライブを作っていく上で、前もって考えることはたくさんあるんですか?
普段はないですね、どっちかというと考えるのは嫌いですから。曲順は当日決めたいぐらい(笑)。だけど今回は曲順もだいたいの構成は夏ごろにできあがっていて、だんだんイメージを固めつつ当日を迎えました。
──武道館ライブはそれだけ特別なものだったということ?
ええ。演出を含めてのものですから。でも、今だから大げさに言えますけど、蛍光灯だけの照明でやっても同じライブになったかなって。音が出て、自分達がプレイしているだけでも伝わったんじゃないか。それぐらい、自分達のテンションも高かったし、集中力も高かった。

映像では言葉にはならない意味を追求した

──武道館のライブは演出と映像も大きな要素ですよね。あのアイデアはどなたが?
メンバーとデザイナーも含めてみんなでアイデアを出しました。こちらから出す曲もあれば、デザイナーが出して、そこからやり取りしてできるものもありました。
──かなり綿密に打ち合わせた?
いえ、具体的なやり取りがあったわけではないんです。なんとなくこんな感じ、とか。言葉になるものが嫌だったりするんです。言葉にならないけど意味がある、そういう次元で決めたくなるんです。説明できてしまうと面白くない。いろんな要素を掛け合わせて、よくわからないけれどかっこいいとか、そういうのを考えていて。だからすごい時間かかるんです。実は実際に使っている映像の倍ぐらいの素材をあらかじめ作っているんですよ。全曲分の映像を作ったんですけど、1曲に対して2回ぐらい作り直したものもあります。結局、流れとか最終的なイメージを考えて、半分ぐらい没にしました。似た映像が流れていても面白くないですし。
──2日目のほうがエグい映像がいっぱいあったような気がしましたけど。
映像が流れている印象度は同じなんですけど、1日目のほうがよりメッセージ性の強い映像を流したんです。それは観た人がどう捉えるかによりますけど。あと同じ曲でも2日間で映像が違っていたりするんです。1日目は大阪城ホール(2008年12月29日開催)の匂いを出して、2日目はそこから1年が経ち、今やっている雰囲気と世界観を重視しました。
──「UROBOROS」の曲を初披露した大阪城ホールはまだ手探りだったんですか?
完全に手探りでした。初めてやる曲なので緊張していたし。
──そこで課題と反省が生まれて、その後に生かされた?
そうですね。でも大阪城ホールをやって、そのあとがライブハウスツアーだったので。大阪城ホールで表現できなかった部分を改善しながらやってはいたんですけど、なにか違う感じでしたね。
──会場の規模が違うし、大阪城ホールはひとつの会場だけだったからですか?
そうそう、単発のライブとは違いますね。ツアーの流れで大阪城ホールをやっていたら変わったと思うんですけど。あと、ここ1年ぐらいでDVD作品を結構リリースしているんですが、大きい会場で撮ったライブDVDを作るのは久しぶりで。やっぱり大きな会場になると、単発のライブになるのでバンドの脂が乗り切ってない。でも武道館の場合は、その前から海外でツアーが続いていたのでいい形でいけたかなと。

音のコンディションが生んだパフォーマンスの違い

──曲順が2日間で違いましたけど、これもみなさんでアイデアを出したんですか?
そうです。最初に叩き台を俺が作って、みんなでやり取りして。1日目の最初の曲が2日目の最後の曲になるというのも最初から決めていました。
──立て続けに観ると、それぞれ印象がかなり違いますね。1日目は完成に向けて全員が向き合っている感じですけど、2日目は逆に全員が外に向けて力を放出しているような印象でした。
そう感じてもらえるとうれしいです。実は1日目は音の問題があって、あまりやりやすくない状況だったんです。だから自分たちの中で闘いながらやっている感じがあると思います。逆に2日目はすごくやりすくて、開放感が出ているのかもしれないです。
──1日目は音が分厚くて、2日目は音の分離がいいような気がしました。
1日目は会場の音がデカかったんです。だから音が回りこんで壁のような音になっているかもしれないですね。それに1日目と2日目ではエンジニアの人が違うので印象も違うんだと思います。

終わった後は達成感よりも安堵感が大きかった

──2日目が終わった後、やりきったという感じはありました?
最後の「VINUSHKA」が終わるか終らないかのとき、このままやりきるぞって思って。音が止まったとき「よし、やった!」って思いました。でもみんなで顔を合わせたときは、やりきったというより安心したというか、安堵感のほうが強かったです。いいライブができて良かったっていう。プレイだけの話じゃなく、全員の気持ちが噛み合ったというか。普通のツアーでも浮き沈みが激しいので、がっちり決まるときもあれば崩れるときもあるんですけど。特別な会場で納得できるライブができたのが良かったですね。
──DIR EN GREYの中でもかなり大きな意味を持つライブになったと思います。
結果的にそうですね。今までは武道館自体には思い入れがなくて。過去に4回やってるんですけど、空いているなら武道館やろうか、という感じで。でも今回やってみてすごくいいな、と。武道館でしか見えない俺たちのライブができた気がします。
──近いうちにまたやりそうですか?
当分いいです、結構疲れたので(笑)。準備があるので、フラっとできないんです。演出がなかったとしても、会場が大きいとしっかり段取りが決められているので。本当は直前までライブのことを考えたくないんですよ。でも、リハーサルであれこれ考えないといけない。そういうのがなければいつでもやりたいんですけど、あまりリハーサルが好きじゃなくて。ライブが一番いいですね。まあ、でもリハーサルしないとバンドもまとまらないので(笑)。


オーディエンスの合唱を聴いて「このまま終わろう」

──今振り返ってみて、薫さんが印象に残っている場面はどこですか?
2日目が全部終わって、「激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇」のビデオクリップが会場で流れたところが印象に残ってます。あのとき、俺らステージの袖にいたんですよ。会場の様子を見ていて、声がかかればもう1回出ようかなと思っていたんですけど。ビデオクリップが流れたときに合唱が起こって、それを聴いたら感動して。このままこれで終わろうって。
──それから現在、武道館ライブに密着した劇場版も公開されています。これはDVDと編集が異なる映像ですね。
こちらはその日の空気感に重点を置いてます。「UROBOROS」のライブというよりも、バンドの1本のライブに向けての緊張感が入ってますね。ステージ裏がわかりますよ。険しい顔もあれば、ものすごい笑顔もある。そこは自分でも観ていて面白いです。俺の顔が引きつっている場面もありますし(笑)。

海外ライブは出たとこ勝負。トラブルだらけで面白い

──ところでDIR EN GREYといえば、ツアーの本数が果てしなく多いですよね。ここまで多くなってきたのはメンバーの意向を汲んでのことなんですか?
ええ。増えてきたのは、ここ3〜4年ぐらいですかね。海外公演が入りだしたので。日本でツアーをする場合、だいたい規模とか本数が決まってくるんです。動員を考えると、これぐらいかなと見えてくるので。そうすると、毎回同じ場所で同じ本数を回ることになるんです。それが面白くなくて、そういうのを1回壊して回ってみようと。基本的に日本だと規模もわかるし、スタッフも多くて贅沢なんです。当日、会場に入ってリハーサルしてライブすれば終わり。だけど、海外の場合はスタッフも少ないですし、自分たちでやらないといけない部分も多い。機材をセットしてリハーサルで音を出して。そうやってみんなで音を出して、遊んでいるような感覚なんです。日本でもそういうふうにできないかなと思って、2009年はスタッフも機材も最小限、みんなで車で回るようなツアーをしましたね。そういうのがすごく良かったです。
──しんどくはないですか?
しんどいんですけど、もともとそうやってきたし、普通ですね。それに、大阪城ホールの後ですぐライブハウスツアーだったので、自分たちでもそのギャップが面白くて。関西近辺のライブはイベンターさんが同じじゃないですか。そうすると大阪城ホールの後でここでやるの? って。そういうのが面白いなと。
──それは、数百人であろうと1万人の会場であろうと、つねに自分たちの音楽をやれるという自信の表れ?
そうですね。でも小さい会場のほうが面白いです。もともとそういうところでやり始めたわけですから。出たとこ勝負がいいんです。
──狭いステージが機材で埋まって、動けるスペースがままならなくても?
海外に行くとそうですからね。国内だと段取りがありますから、きっちりやってきっちり終わらせないとダメみたいな空気があって。海外だと、出てみて何が起こるかわからない。トラブルもしょっちゅうあるし、バンドがだんだん強くなるんですよ。

想定内に収まるようなことはやりたくない

──DIR EN GREYは海外での評価も最近ますます高まってきてますよね。
いや、まだまだ厳しいですよ。世界中にアーティストはいっぱいいるわけだし、その中で際立ったものをやるというのはかなりのことなので。なかなか難しいです。
──その難しい道を選んでいるのはなぜでしょう?
単純に観たいという人がいるなら大阪行くのもアメリカ行くのも変わらないですよ。そこで、いわゆる“成功”や“一発当てる”みたいなことを考えだすと、もう大変です。もちろん行くからにはいろんな人に観てもらいたいし、曲もたくさん聴いてほしい。でも向こうのアーティストならすぐやれることが、俺達は向こうにいないからできない。海外のアーティストは、アルバム出したら年に3〜4本ツアーやってますけど、さすがにそれは無理ですから。それに次から次へ新しいアーティストが登場するので、すぐ忘れられるからずっとツアーをやっていないとだめなんです。今はそれが難しいので、まだまだですね。
──最初の話のように、現実が上がると目標も上がっていくような?
それとはまた話が違って、雲をつかむようなものです。これでいけるのかなって。音楽の文化は向こうのほうが古いわけですから、そこに追いついて新しいものを見せるというのは……。頭を使ってやる部分も大事ですけど、それだけじゃなく、自分たちから出てきたものがうまく噛み合って、何かが起きるんじゃないかなと思っているんですけど。ただ、それを待っているだけでも難しいので、どういうことをやると面白いかなっていつも考えてますね。
──そうやって常に新しいものを見せたいという気持ちがあるうちは続けられますよね。
それがなくなったら辞めようかなと思います。かといって、目標は作らないようにしているんです。これが目標って決めたら想定内じゃないですか。自分達はもっと想像のつかないところに行きたいので、目標は作らず、面白いことをやりたいと思っています。
──タフですよね。
慣れていますから。デビューして2〜3年だったら、やってらんねえっていう状態になると思いますけど、今はもうそれしかやることがないので。音楽以外の趣味で1カ月時間を潰せ、って言われても、ただボケーっとして終わると思うし。それにバンドの脂が乗っている時期というのは、ずっとじゃないと思うんです。今しかないし、いつ何が起きるかわからない。今やりたいことをこの先やれる保証はないので、今は休んでいる場合じゃないと思ってます。

Source From:http://natalie.mu/music/pp/direngrey




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